■ 5:「貴方が歌うはずだったこの歌を代わりに歌う」
貴女が歌うはずだったこもりうたをオルゴールの音に変えて。
部屋を静かに満たしていく音の列。
慣れきった音に安心しながら皆は各自楽しそうに食後の談話を楽しんでいた。
自分もまたつけられていたテレビに視線を向け、始まったばかりのドラマを食い入るように見る。背後からどうぞ、と指し出されるジュースはオレンジ。有難う、とお礼を言いながら受け取れば掌がとても冷えた。
オルゴールがリン、と音を切る。
螺子が止まったので巻いてやろうと立ち上がろうとすれば、それよりも先に家族がオルゴールを手にしていた。慣れた手つきで螺子を巻き上げる指先から目が離せない。自分とはまた違う指の動きが何故か新鮮に思えたのだ。
再び鳴り出すのは『こもりうた』。
誰もが知っている有名なメロディー。母親が歌うはずだった旋律は複雑に組み込まれた鉄のオルゴールが引き継ぐ。
rin・rin。
la・la・la。
自分達は今日も『母』の歌声を聞いた。
(ジェンドなら歌=籠もり歌)
(カインなら歌=子守歌)
(ユーリとユーリスなら歌=蝙蝠歌かもしれない)
(馴染んだ音を歌だと表現するための条件。それは誰かが歌った覚えがあるということ)
(受け継がれる何か)