■ Prologue⇒


「ねえ、たまには貴方の思い出話などしてくれませんか?」


 彼は持っているフォークをスープに浮かべられた野菜に突き刺しながら俺にそう言った。
 俺はと言うと不躾にくるりとフォークを指先で回しながらその「お願い」にどう対応しようか考える。
 口の中に運んだ野菜を租借しながらにこやかに自分を見つめてくる二つの瞳はまだ子供のもの。年齢的には成人手前というところだろう。


 フォークをそっと脇に寄せ、俺は手を組んで顎を乗せる。
 表面上だけは礼儀正しく、そして微笑ましく。


「良いでしょう。食事の間に終わってしまう、短いお話を幾つかしてあげます。今から話すそれはガラクタのように下らなくて、だけど誰かにとっては喉から手が出るほど欲しがるお話です。今の俺にとっては過去の話でしかないのですが、ね」
「ああ、とても良い暇つぶしが出来ました」


 彼はそういいながら手を止めることなく食事を続ける。
 俺は食事が冷えてしまうことを覚悟しながら温まった唇を緩やかに開いた。
 脳内に並べた小咄を瞬時に選出し、そして子供に聞かせるために。



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