■ ⇒Epilogue
「よくもまあそれだけ変な物事に巻き込まれるものですね」
半ば呆れたように彼は言う。
俺は眉を寄せながら笑った。
「そうでもありませんよ。人生なんてそんなものです」
「私はそんな人生歩んだ覚えありませんが……?」
「旅をしていると不思議なことに出会う、それだけですよ」
すっかり冷えてしまった食事を見下げ、ため息を吐く。
切った肉を口の中に放り入れれば硬い感触に眉を顰めてしまった。ゴムのような収縮度に脱力しながら食事を続ける。ついでに冷えたパンにも手を伸ばして。
この短い話達は完全に把握の出来ていない未完成の物語。同時にそれらは完成を見ることがない、不完全な物語。
当たり前の日常に埋もれていった、俺の人生の一部。
誰かに優しかった時もあった。
誰かにとって脅威になったこともあった。
主人公よりも脇役に徹した時間も確かにあった。
「ところで一つ質問なのですが……よろしいでしょうか?」
「ろーうぞ?」
口の中に食物を入れたまま返答したので言葉が上手く出ない。
彼はくっくっと笑い、両手をテーブルの上で組んだ。ナフキンで口の周りを拭きながら彼の質問を待つ。
彼はその瞳を細めながら俺を凝視した。
「話をお聞きした上で浮かんだ事なのですが――貴方、今お幾つで?」
にこにこにこ。
笑顔を崩さぬまま彼は言う。俺はあー、とだらしない声を出しながら一度後頭部を引っかいた。
ああ、なんて幸せな悪戯。
ああ、それはなんて幸せな二人。
ああ、それはなんてしあわせな――――。
「世の中には、知らない方がいい事もありますよ」
ね? と微笑みかければ、彼の膝の上から兎の縫い包みが自分を見てた。
―――――
> 『彼』の特性は誰かの望む人を演じること。
『彼』は本編では自己破壊型不幸だけど、大体において巻き込まれ型不幸なのだろう。
メインキャストだけじゃない、彼も確かに誰かの世界で『脇役』だった。
これはそんな小さな小咄。
これは彼の本気以外の物語。
だから穴抜けの情報が多い、仕合わせ。
ある程度背景設定を固めた上で『書きすぎてはいけない』っていうのは中々じれったい。
「ヴァーロ」は都合の良くて頭のいい『お人形』。
「リリカ」は都合のいい『女性』。
「レイチェル」は理想の巻き込まれ不幸型『女神』。
「アドセル」は失った愛しい『娘』。
「マゼンダ」は強制的に契られた『兄』。
「ツヴァイア」は暇つぶしの『運命』。
「フィンチェル」は三分の一の『同一人物』。
「ゼネル」は創られた『盗賊』。
「ラーグ」は子供だけの『父親』。
「テルミネ」は幸せを買わなかった『通行人』。
幸せを買った人は当てはめて遊ぶがいいです。
気に入った話があれば幸い。
そして教えてくれればとても嬉しい。
――――
ああ、どうか。
俺がいなくても幸せに。
そして全てを知ることがないまま、どうかしあわせに――――。
( 「何故?」 なんて聞く時間は無かった )
( 「有難う」 なんて照れ臭くて言えなかった )
( 「ごめん」 なんて馬鹿らしくて言えなかった )
( 「幸せに」 なんて言う資格は俺にはなかった )
( 「またね」 なんて約束出来ないと分かってた )
( 「楽しかった」 なんて、今更言えないけど )
ああ、どうか。
俺がいなくても幸せに。
そして死を迎えた彼らがどうかしあわせでありますように――――。