( 『  死  者  』 の た め に 踊 る 人 形 )



 とーんとん。
 軽やかに丘の上で跳ねる私。
 地面の下に潜む屍骸を思い出してくすりと笑った。


 理想の人形が欲しかった。
 (自分を殺してくれる)
 理想の人形が欲しかった。
 (死体を抱きしめてくれる)
 理想の人形が欲しかった。
 (自殺を他殺に変えられる)


「最後の祈りが届くといいですね」


 両手を広げて踊る影は『十字架』。
 適当なリズムで歌いながら私は言った。それは綺麗事の海が地面を濡らした夜の愚行。平になっていく地面がとても愛おしかった。



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( 僅 か に 逸 れ た 『  弾  』 の 意 味 )


 その日の朝。
 今しがた出てきたばかりの屋敷を振り返り、その距離を図る。
 それを何度か繰り返せば、自分の位置もおのずと確認出来た。申し訳程度の荷物を握り締め、歩数を増やしていく。


 屋敷を振り返れば二階の一室からは『キュール』が私を見送っていた。
 約束通りあれ以来言葉も交わしていない。むしろあの日の存在自体が薄れていっている。やがて屋敷と共に彼の姿が見えなくなり、私は森に沈んだ。



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( 『  非  命  』 と 共 に 解 説 を )


「ねえ、お父様。単純に考えてこれはバッドエンドだと思うのだけれど、貴方はどう思う? ねえ、お兄様達。単純に考えてこれは<もう一つの物語>以下の接触だと思うのだけれど、どう思う」
「お茶のお代わり如何です?」
「頂くことにするよ、お姉様。こちらは茶菓子にメルヘン王国名物竜族饅頭を差し出すことにしよう」
「いつの間にかお前めっちゃ和んでんな」


 ずずずーっとMZDがお茶を啜る。
 人形屋敷の屋根の上で開かれたお茶会。エイダがティーカップから際限なく紅茶を注いで他の四人に渡す。さり気なく空中から取り出された茶菓子に手を伸ばしながらのほほんと物語を見てた。


「伯爵が望んだのが生か死かなんて俺にはどうでもいいが、リバースは有り得ないね。『綺麗事の海』に沈んでしまったんだから」
「どういうことですか?」
「『綺麗事の海』ってのはいわゆる一つの罠であり、言葉遊びでもあり、伯爵が求めた『人形像』のこと。ま、沈んだってことは伯爵は見事にその罠に掛かったってわけ。――――ほれ、謎明かしされんぞ」


 饅頭を一口で放り入れて大きく租借する。
 家族から一人分離れた場所で『祈られ神』が嗤った。


「『最後の祈りが届くと良いですね』――――と言ったのは誰なんだろうねぇ、お父様」



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( 人 形 師 の 手 は 『  止  る  か  』 )


「っと、やっぱり俺に操り人形は無理ですよ」
―― 随分上手になったと思いますけどね?
「いやー、やっぱりこう、もうちょっと綺麗に動かしたいんですよ」
―― ふむ……。ところでそろそろ部屋から出る気はありませんか?
「あーそうですね。あの人も帰りましたし……えーっと『とててん』伯爵でしたっけ?」
―― トーテです。トーテ。


 かしゃんっと人形が崩れる。
 長時間動かしていた指先が悲鳴をあげていた。キュールは手をこきこきと動かして筋肉を解す。お疲れ様の言葉の代わりに人形達からお茶が出される。彼は其れを笑顔で受け取った。


「あの人なんか生理的に嫌いなんですよねー。同族嫌悪っていうか嫌に出来のいいガキっていうか……あー、帰ってくれて良かった」
―― 何を言うんですか、わざと帰る様に仕向けたくせに。
「その節はご協力有難う御座います。あー本当、誰が大人しく身体晒しますかってね」
―― いえいえ、貴方の『綺麗事の海』にはいつも感心します。
「まあそのために丸一日部屋に籠もってたんですから。それに――――」


 ふと、どたどたと何かが駆けて来る。
 音の大きさから其れが誰なのか簡単に予想出来た。彼はジズと二人で顔を見合わせ、肩を竦める。やがてバタン! と扉が開かれた。


―― ジズ、先日見せたあの人形知らないか!?


 それはとても強い既視感。
 「例題、『人形が歩き出せばどうなる?』」と問いかけたのはキュールで、「人形師が慌てる」と答えたのは伯爵。
 けれど今それは不正解で。


 ジズの代わりにキュールはぽむっと手を叩いた。それからえへっと笑い、後頭部を擦って答える。


「すみません。その人形、『埋』められちゃいました」
―― はぁ!?
「っていうか自分そっくりの人形なんて嫌なんですけどねえ。俺としては何勝手に人の外見使ってやがんですかって思って今すぐにでも飛び蹴りたい心地なのですよ。……さて、その点を踏まえて 何 か 問 題 で も ?」


 黒いオーラがキュールの背から出る。
 威圧されたレイズは顔を横に逸らし、両手を胸の前で立てた。思わず人形達がひぃっと足を一歩下げる。ジズがくっくっくっと一人面白おかしそうに顎に指を当てて身体を屈めた。


―― キュールさん、貴方結構人形師に向いてますよ。
「俺は『自分で』人を陥れる方が確実性があって好きですよ」
―― あれだけ動かしておいて何を言いますか。
「えー、途中動かせなくて大変だったじゃないですか。指疲れるし」
―― そりゃあ、丸一日遊んでたら、ねぇ?
「さて、この話はもうおしまい。さ、皆おいで。今日は晴れているから外で絵本の続きを読んであげましょう」


 彼が歩けば人形達が列を成して追いかける。
 列の最後では新しく家族に加わった小さな『黒髪人形』がとてててっと走って行った。


 例えばこれは吸血鬼に嫌われた伯爵の小咄。
 例えばこれは伯爵が出逢った異端嫌いの吸血鬼の小咄。
 例えばこれはヒトと人形の区別が付かなかった人の小咄。
 例えばこれは僅かに逸れた弾の意味を問う小咄。


「操られた人形に罪はないですよね」



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( 綺 麗 事 の 海 は 『  綺  麗  』 か ? )


 それはある晴れた日の戯言。
 人形達に囲まれた彼は音を求め続ける。森の中を突っ切って自分の屋敷に戻っていく青年の『綺麗事の膿』。
 ああ、それはとても綺麗な海に沈むかのような『人形遊戯』。
 綺麗事の海に溺れた伯爵を掬い上げるための糸はまだ絡んでいない。同様に操り糸が掛かった人形は糸を振り払う術を持たない。


 人形が欲しかった。
 人形が欲しかった。
 人形が欲しかった。


「私はただ、『人形』が欲しかった」


 埋められた地面の下、もがき苦しんでいるのは誰か、私は知らない。




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> 最終話。
 ぶっちゃけ此処が書きたかったのですが蹴落とすまでのステップが長かった罠(遠い目)
 さり気なく噛み合ってた二人がらぶかったなんて言わないッ。

 人形遣いなきゅーちゃんが書きたかったわけですが。埋められちゃったと言いたかったわけですが。人形入れ替えだけじゃないよ、『操っている』んですよ!
 7話以降のきゅーちゃんは最後までは舞台裏ですとか言っときます。覗き見たあれは白蒼じゃないというオチ。


 黒髪人形は異端神話で出てきた人形になるといいですねとか。
 本編考えると別にハッピーエンドにする必要はないですよねとか。
 『未熟者の人形師』は=きゅーちゃんだったっていうネタとか。
 『操られた人形』は実は伯爵を指してたんだとか。
 だから伯爵に罪はないんだけど、相性が悪かったね、とか。
 神様系統は解説しか役に立たなかったなとか。
 何で人形埋められたんだとか。
 非命っていうのは『思わぬ死』のことを指すんだとか。


 下二つは特に解説して逃げたいところですが、取りあえず終わります。お疲れ様でした!
 ……10話超えるところだった、あぶねぇ!






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